Reseach |
01 発生休止におけるフィロスタシスの解明
胎生の哺乳類の胚発生において、着床前胚は母体の環境や成熟度に応じて細胞周期と細胞分化の停止を伴う発生休止(Embryonic diapause; フィロスタシス)を起こすことで、胚発生と母体成熟スピードのバランスを保っています。例えば、クマやシカ、カンガルーなどの着床前胚では、冬季や乾季などの育児に適さない時期の出生を避けるために、母体の環境に応じて、数ヶ月もの長期にわたって自らの発生を積極的に休止することで、出生時期の最適化を行なっています。しかしながら、胚がどのような細胞-組織間相互作用を介して、細胞周期と細胞分化を休止するのかは依然として不明なままです。そこで本研究では、発生休止現象における多細胞システムの詳細を明らかにすることを目的とし、計画班と共同して最新の多階層オミクス技術、イメージング技術、ゲノム編集技術、情報解析技術を駆使して明らかにします。
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02 幹細胞フィロスタシスとその破綻による老化の統合解析
組織幹細胞はしばしば増殖や分化を休止させた状態で保持されています。このような活動休止は幹細胞の長期維持に必須であり、老化や慢性炎症により休止維持できなくなった幹細胞は組織再生能を失い枯渇していきます。しかし従来の研究では、低酸素などの微小環境の影響を受けた幹細胞休止の受動的な側面(代謝変化など)のみに着目してきました。本研究では数ヶ月から数年にも及ぶ造血幹細胞休止の維持に焦点をあわせ、幹細胞と子孫細胞との細胞間相互作用を介した能動的な休止維持メカニズムを解明します。さらに幹細胞老化による休止維持の破綻を統合的に理解することにより、老化幹細胞の若返り技術確立へとつなげる事をめざします。
PMID: 33665638 PMID: 29035359 |
03 フィロスタシスを「予測」し「操る」技術の開発
生体を構成する多細胞組織は、環境ストレスに対して、細胞間コミュニケーションを介して休止することで、長期間の自己防衛や自己保存を可能にしています。 本研究ではプログラムされた多細胞組織の活動休止の共通性を炙り出す解析技術を開発します。最先端の統計科学と機械学習、光単離技術(PIC)、ライブイメージング技術を融合し、プログラムされた多細胞組織の活動休止の共通性を炙り出します。さらに、得られたオミクス情報・イメージングデータをもとに、多細胞組織内の個々の細胞の運命予測を可能とする機械学習手法を構築し、休止状態を人為的に操る技術を開発します。
©️ 2023 文部科学省 学術変革領域研究(B) 令和5-7年度 フィロスタシス 多細胞組織におけるプログラムされた活動休止